硝子、王冠、砂糖菓子~ある夜の話・6~

 付き合い始めて初めてのクリスマス。
 今までだってクリスマスは一緒に出掛けてたしパーティもしたしプレゼント交換もしたけど、今年はちょっと特別で。スキーの時は快斗が誘ってくれたから、今度は青子が誘おうと思って。だから、ちょっとだけ期待とかしてたのに。
「なんでイブにお仕事なの……バ快斗」
 なんでこの日一日だけの公開とかしちゃうのかな。お父さんだって行かなくちゃいけなくて、折角お母さんもお休み取れてたのに。お父さんとお母さん、二人のディナーが潰れちゃった。お仕事だからしょうがないんだけど。
「お仕事だもん。しょうがないよね」
 
 + + +
 
「なんでイブにだけ公開にしたりするんだよ、あの爺さんはよ~~……自分は用ないかもしんないけど、オレはな……多分名探偵だってよ~~」
「予告の時間をもう少し早めることは出来ますよ、快斗坊ちゃま」
 ブルーパロットのカウンターでだらだらとしているオレに寺井ちゃんの助言。もう少し早めるか。いや早めてもな、あの次郎吉さんな……ありとあらゆる方向性を考え決断する。
「ん~……いや、いいわ。失敗したら元も子もない。この機会しかないんだからミスは出来ねーだろ」
 イブに仕事が入ってしまったと言おうとしたら『宝石盗りに行くんでしょ』と先に言われてしまい、間違ってはないので否定はしなかった。スターサファイヤ、その日だけしか展示しないって、あのお爺さんが楽しみにしてるみたいだし、プレゼント代わりに丁度いいじゃない、と言われてしまい、そうだなと答えるのがやっと。自分に言い聞かせるように、諦めさせるように淡々と話す青子を何とかしてやりたかった。
 あの爺さんにプレゼント渡して何があるんだ。そんな事より青子と過ごしたい。
「よし、ちゃっちゃと済ませてしまおうか」
 オレの言葉に寺井ちゃんがそうでございますねと頷いた。
 
 
「さっむいな! まじで雪降るんじゃねーの」
 こんな日にグライダーで飛ぶもんじゃない。凍え死ぬ。天気予報は本当か嘘か夜半過ぎに雪のマーク。
 やっぱりというかなんというか。深い青のなかに白く光る星。綺麗ではあったけどスターサファイヤは目当てのものではなくて。返すぞ、と名探偵に渡せば今日は用でもあるのかお急ぎじゃねーかなど言われてしまった。彼女が夕食作って待ってるのでお互い様じゃないですかね、と挨拶してみたら図星だったらしくサッカーボールが飛んできた。こえーな。
 いやまあ夕食はないんだけど。普段だったらお夜食何がいい? とか話しかけてくる青子。でも今日はなかった。だからきっともう寝てる筈だ。寂しいから、ベッドに籠って。ちゃんと寝れてるだろうか。
 
「お仕事だもん。しょうがないよね」
 
 寂しそうに呟いていた青子。そんな声させたくなかったのに。今年はクラスの奴らとのパーティもしないってなったし。オレが仕事って事は警部も仕事だし。碧子さんも結局仕事するみたいだし。休んだって良かったろうに、青子が大丈夫だよとか言ってしまったから。大丈夫とか言わなくていいんだよ。大丈夫じゃないだろ。
 
 今日はイブだ。明日がクリスマス本番。プレゼントはイブの夜から当日の朝まで。置いて帰ればいいだろといつものベランダに降り立とうとした。
 ひかりが見える。そして人影も。
 起きてる? まさか。
 こんな寒い中、ベランダに出ている。肩には青で縁取りされた白いブランケット。
 グライダーを畳みながら白い衣装を脱ぎ普段着に戻る。ベランダに一番近い木に飛び降り、その反動でそのまま手すりまで飛んだ。
「快斗!?」
「おう、ただいま」
「……おかえり。びっくりしちゃったよ、もう」
 青子の驚いた声。いきなり落ちるように来たら流石に驚くか。手すりからベランダの中へと降り立つ。
「わりーわりー。何してんだよ、こんなとこで。寒いだろ。雪降るとか言ってんだから外出るなよ」
「それは快斗もでしょ。こんな寒いのに」
 青子が白い手袋を外し、その手をオレの頬にあてた。
「あーもう、こんなに冷やして。風邪ひくよ」
「大丈夫だって」
 青子の手が暖かい。自分の頬が熱い。このまま熱に浮かされそうだ。
「ケガしてないの? 大丈夫? サッカーボール飛んでたけど」
「大丈夫。避けた」
「すごいね、コナンくん。あんなにちっちゃいのにすごい力」
 いや、よく判んねー装置使ってるからあいつ。ちっちゃいとか関係ない。
「あ、あの。お腹空いてない? 青子ね、ケーキ作ったの。ちゃんと膨らんでるから大丈夫だと思う」
 部屋から出てきたのはシフォンケーキ。食べやすいサイズに切り分けられている。
「クリスマスだからケーキだなって思って。買いに行ったんだけど、どこも予約分しかありませんって。だから青子が作ったの。快斗、今日は来れないんじゃないかと思ってたから明日の朝食べて貰ってもいいかなと思って。準備だけしてて」
 どう? と首をかしげる。安易にそう言う仕草するなよ。自分の意識をそらそうと、寒さで赤くなった青子の頬を手でつまむとむーっと頬を膨らませた。尚更意識はそらせない。返って集中してしまった。だめだ。
 一つ深呼吸。切り替えて言葉続ける。
「これなーんだ」
 ぽん、と軽やかな音と共に青子の掌に落とした白い小さなもの。
「白い鳩……おかし?」
「そ、砂糖菓子。見てろよ。Three、two、one!」
「ひゃっ……消えた?」
「そのケーキのどれかに入れたから探してみな」
「ガレット・デ・ロワ?」
「フェーヴじゃないけどな」
 途端に顔を輝かせて一つ一つ確かめ始める。
「出来てるものに入れたんだったらどこかに穴とかあってもおかしくないんだけどな~」
「そんな簡単に分かんねーよ」
「絶対当ててやるんだから」
 ケーキをひっくり返してみたり並べてみたりして楽しそうにうんうん唸ってる。
「これ! きっとこれ! どう!?」
 得意満面。いくつかあるシフォンケーキの一つを差し出す。
「割ってみろよ」
 勿論、と大きく頷いてフォークをまっすぐ入れる。中から出てきた白い鳩の砂糖菓子。大きく目を開けて、次の瞬間花がほころぶように笑う。
「見て! はとはと! すっごいでしょー!」
 ぴょんぴょんと飛んだり跳ねたり大騒ぎだ。
「当てた人には王冠があるぜ」
「えっ……?」
 オレは指先をくるんと回す。次の瞬間には首元にフロストガラスのネックレス。微かな軽い感触を青子は手で確かめて、ペンダントトップに視線をやって、次にオレの方を見る。
「メリークリスマス! だろ」
 いつものように笑う。時計の針はぴったり重なって、物語なら魔法が解ける時間。雪が舞い始めた。
「メリークリスマス……かいと……ありがと」
「おう」
 俯いてペンダントトップのフロストガラスを握りしめる。泣いてるのかと思ったけどそんな事はなくて、ふわんと笑ってた。それで十分だ。
「じゃあな、遅いから寝ろよ。朝起きて雪積もってたら雪合戦しよーぜ」
「そんなに降ったりするわけないじゃない」
「わかんねーだろ」
 木に飛び移ってからオレの家の庭に降りたら~いや、そのまんま部屋のベランダに降りるか? ……と道のりを考えながら足を手すりにのっける。
「あ、待って」
「ん? どした。そうだ、明日……」
 青子が近いな、と思ったら左頬に自分のじゃない熱がある…………て、え? なんの感触だ?
 ゆっくりと熱源が遠のいて、青子も離れて。
「……クリスマスプレゼント」
 と真っ赤な顔して呟かれた。
 思考が真っ白になって理解するのに時間がかかる。プレゼントって……プレゼント?
「じゃあね! おやすみ! また明日ね!」
 ぱしん! とベランダの窓ガラスが閉められ原因の人物は部屋へと逃げ込んだ。その音でやっと色々理解する。
「まて、青子! 今の……!」
 話しかける相手はすでに部屋のベッドの中。確認しようにも仕様がない。いや、クリスマスはまだ続いている。寝て起きてリセットかけたら改めて勝負だ。やられっぱなしにはしないからな。