「いなくなっちゃったかと思っちゃった」
「んな訳ねーだろ」
青子を飲み会から連れ帰り、自宅帰宅からの青子の参加した飲み会の主催メンバーを洗い出した後、就寝と相成った。が、「快斗、どこ?」という青子からの電話。ふにゃふにゃと要領を得ない受け答えにしょうがないなと中森家に舞い戻ったのはまだ夜も深い半宵。
「どした」
電気もつけていない部屋のベッドの上に座り込む青子。こんな真夜中に本来なら踏み込むべきではない。分かってはいるが寂しそうな、そんな彼女の声を聞くと、何とかしてやりたくてどうしようもなくて足を運んでしまう。これは本当にどうしようもないのだ。
「こっち……えい」
青子にぐいと引っ張られ、寝転がりそうになる所を何とか片腕で自身の体を支えスプリングの上に腰かけた。それをした当の本人は横になりご満悦だ。ふふーんと言いながら支えになっておらず空いている快斗の手を両手で握って来る。
「おーい?」
「だってきもちわるかったの」
ぷうと頬を膨らませ話始める。多分、飲み会の男の話。ずっと隣で、近づいてきて、嫌だったと。あまりの言われように同情しそうにもなったが、青子を持ち帰ろうとしたのを思い出すとそんな優しさは消え失せた。
「すごく近くて。息とかも……やだった。いっぱい触って来るし。少し離れてもすぐ来るし。ちゃんと逃げたけど、やだったの」
重ねてただけの手の指が絡み合う。人差し指と人差し指が、中指と中指が。全ての指が。体温が伝わる。
「快斗とね、こうしてるの好き」
指を絡めたまま彼女の口元に引き寄せられる。吐息が当たる。
「……そうかよ」
「うん、だいすき」
常々思っているが、アルコールが入ると好意の言葉が溢れるように紡がれる。その度にこちらの感情の乱れ具合が説明できない程に上下するのだ。手に負えない。
こちらのそんな感情を知ってか知らずか、青子は快斗の指を口元に引き寄せたまま、表情を和らげ「ふふん、キッドの真似~」とそのまま唇を強く押し当てた。
「まねーって……」
あれは手の甲に軽くするものであって、これほどまでに強く唇を押し付けるものではない。
「だって色んな人の手にこうやってちゅってしてたじゃない。蘭ちゃんにはもっと~……」
「いや、だからそれは」
もう一度青子の唇が寄せられ、ちゅ、と軽い音がする。人差し指、中指、と順に唇が寄せられる。
「いいな~って。青子にはしてくれなかったもん。みんなにはするのに、青子にはしてくれないんだなーって……青子、変かなーって」
正体が知られてない時ならいざ知らず、気付かれた後にはするわけにはいかない。変とか、そういう話ではなく、あの格好でしようとは思えなくて。出来るのならば、白い衣装はいらなくて。
「だから青子からしちゃった~ふふーん……いいでしょ~」
「そうだな、羨ましいよ」
すごいでしょ、そう笑う青子が本当に羨ましくなる。どれだけ思案したことか。
なんだかんだで彼女はキッドを好ましく思っていなかった。そんな奴からされたらどうなるか、火を見るよりも明らかだ。
そうでなくても、青子は一時期キッドとの関係を組織から疑われたのだ。東都タワー以降、怪盗の姿での接触は気にするようにしていた。まあ、こちらがどんなに気にしても彼女はそれを良しとしていなかったし、それに負ける程弱くもなかったのだが。
楽しそうに指に唇を寄せる青子の手を快斗はぐいと自分の方に引き寄せ、口づける。
「やられたらやり返すからな」
「ふぇっ!?」
形勢逆転。快斗の方に引き寄せられた手は多少の力ではうんともすんとも動かない。
「してほしかったって言ってただろ」
「うん、いった、けど……ひゃっ!」
予想しなかったであろう場所――額に口づけられ青子は短く悲鳴を上げる。
「手とは言ってねーよ」
「~~~バ快斗!」
「はいはい、お話はもう終わり。寝とけ」
やだやだと駄々をこねる青子を宥めて寝かしつけるまであと数刻。