「さ~く~ら~♪ さ~く~ら~……」
一歩踏み出してはくるり、一歩踏み出してはくるり。
ひらひらと舞う桜の花びらをまといながら嬉し気に歌う幼馴染を半分呆れながら快斗はその後ろを歩いていた。
終業式の帰り道。「こっちの道から帰ろう? 桜がきれいなんだよ!」と満面の笑顔で青子に言われたら快斗に断る理由はない。
「オメーな、そんなくるくるしてたら転ぶぞ」
「転びませんよ~青子はそんなにお子様じゃありませ~ん」
ふわふわと髪を揺らしながらくるり、さらに逆にくるりとすると胸元のスカーフも逆に揺れる。
桜は綺麗だと思うが、ただそれだけだ。それに感情がのるのは幼馴染が楽しそうにするからで。
ひらひらと薄い色の花びらが舞う。青い空に映える。
「きれいでしょ!」
「うわっ」
気付けば至近距離……鼻先数センチに来ていた青子に快斗は面食らう。
「ねーきれいでしょー? こっちから帰ってよかったでしょ」
「おまっ……近い」
「なにが? ねえねえ、青子お弁当作るから明日はお花見に行こう! おかず何にしようか」
「オレまだ行くって言ってねーけど」
「行かないの? 何か用ある?」
「行くけど」
その返答に「じゃあ、いいじゃない」と不服そうにする。至近距離なのは変わらず。この距離で大丈夫なのかこいつは。乱気流に巻き込まれたような快斗の感情などお構いなしだ。
「鶏のから揚げと~……たけのこの炊いたのも持っていこう。あ、だし巻き卵も」
踵をおろし、またくるりくるりとステップを踏み始める。桜が咲いているだけなのに、ふわふわとする青子を見てるとこちらもつられてふわふわするからたまらない。
「足元気を付けろよ」
「だーいじょう、ぶっ……」
その言葉とは裏腹に踵が滑り、上体が大きく揺れた。地面に接する前に青子の手を取ると自分の方へ引き寄せる。転倒は免れた。ほんの数秒の出来事。
「ほれ見ろ。回りすぎ」
「なによー別にいいじゃない。ころげてないんだし」
「オレが受け止めてやったからだろ」
「じゃあずっと受け止めててよ」
「オレはオメーの受け止め係じゃねーんだよ」
「なによーいじわるー」
「はいはい、意地悪ですよ」
むくむくと膨れる頬を快斗は指で押し、にっと笑うと幼馴染は尚更に頬を膨らませた。