石はみっつ

 
 
 じゃあ、オレが送って行こうか? という声。今年卒業予定の男の先輩。
 それに返すのは来年度からうちの研究室所属予定の女の子。大丈夫です、彼が迎えに来るので! とアルコールが入ってふわふわとしているもののしっかりと答える。それでもしつこく送るだのなんだのとうだうだ言ってる先輩。女の子に手を出してる場合じゃないんじゃないですかね? 卒論の詰めが間に合ってないようなことを聞きましたよ? という言葉は飲み込んで、送られそうになっている女の子ー中森青子ちゃんに私は声をかけた。
「黒羽くん? ここ知ってるの?」
 青子ちゃんがお付き合いしているのは黒羽快斗くん。学内の有名人、工藤新一くんの彼女に青子ちゃんは間違われることが多かった。それで配属になったその日に工藤くんの名前を出したら、すっと訂正しに来たのが黒羽くん。そうね、自分の付き合ってる子が他の人と付き合ってるとか思われて平静でいられる人は少ないわ。
「しってまーす! 終わるころにはくるからなーって言ってたから~~……」
 お店の出入り口にある椅子に腰をかけ、片手をあげて元気よく答える。思わず口元が緩んでしまう。
「少し早めに終わっちゃったから……一緒にまってようか。ここだと邪魔になりそうだから、ちょっと移動して……」
「ここで大丈夫です。さっきお店の人にも聞きました。お迎えここで待っててもかまいませんよって言われたので。それに約束してるから、私がいなくなっちゃうと彼が困ります」
 尚も食い下がる先輩にしゃきっと彼女が告げる。その横を研究室の他のメンバーが帰宅のためすり抜ける。先輩の態度にあきれ顔をしながら。
「じゃあ、私も黒羽くんくるまで一緒にいようか」
 かわいい後輩を危ない先輩と二人だけにするわけにはいかない。彼女の座る隣に腰を落とした。嬉しい、一緒だ~ともたれかかってくる。その様子を確認した先輩は、女の子二人だと危ないからとか言いながら、青子ちゃんの隣……私と反対側の椅子を陣取る。
 少しだけお付き合いくださいね、と殊勝なセリフ。その彼女の薬指には石の三つついたリング。狙う子のこういうのはしっかり見といた方がいいですよ、先輩。
「その指輪シンプルで可愛い。石は三つついてるの?」
 えっ、と低い声が耳元に届いた。ほら、やっぱり気付いてなかった。
 青い石を真ん中に片方は白くくすんだ石、反対側には赤紫の石が光る。
「はい、真ん中のがサファイヤ。両横にムーンストーンとアレキサンドライト。サファイヤが青子の誕生石で~ムーンストーンとアレキサンドライトは快斗の誕生石! アレキサンドライトって光によって色が変わるんですよ~快斗みたい」
 大切そうに石を指先で撫でる。その表情はとても優しく、愛おしく。
「快斗もお揃いの付けてるんです。最初はね、青子にだけくれようとしたんですけど。青子がお揃いがいい! ってねだったんです。邪魔になる時は外してもいいから、お揃いがいいって。だってね、快斗を好きな人たくさんいるから、つけてたら、せめて、少しは……ダイジョブかなって」
 ムーンストーンとアレキサンドライトに細い指が重ねられる。
 工藤新一の探偵業のサポート役として名をはせてきた彼。抜群の頭脳と愛想の良さに加えてマジックというパフォーマンスにも長けて、それに加えての外見。惹かれる異性は多い。
「黒羽くんは青子ちゃんとずっと一緒にいてくれるわよ」
 つけている指輪を見ればわかる。石はサファイヤだけではないから
「でも、青子、嫌な子で。他の女の子と一緒なの見ると、むかってしちゃうんです」
「しょうがないよ。私もそういうのはちょっとむかってするもの」
 どれだけ知っている異性でもそうでなくても、自分以外といてこちらを向いてくれないと多かれ少なかれマイナスな気持ちは持ちあがってしまうものだ。それを当たり散らす気はないけれども、嫌な子だなと少しだけ自己嫌悪はでてくる。
 しょうがないか~と俯きリングを撫でる彼女。つられてこちらも薬指の金属に指を置いてしまう。
 
 からり、と店の引き戸が開いた瞬間名前が呼ばれた。
「かいと!」
 ふにゃりと表情を崩す青子ちゃんに対する彼の目元が優しくなる。彼女はぽふっと小さな体を預けると嬉しそうに笑った。
「すみません、つきあわせてしまって。ありがとうございます」
「いいえ~、お気になさらず! はい、青子ちゃん立てる?」
「立ちます。お二人ともありがとうございました」
 きりっと立とうとするもふわふわする青子ちゃんを黒羽くんが受けとめる。オメーなあ……なによー! って多分いつものやり取り。
 じゃ、俺かえるな。と小さくなった先輩が店を出ていく。二人にあてられましたね、やっぱり。
 視線を動かすと黒羽くんが鋭い目つきでそそくさといなくなった人の行く先を見てた。そうよね、分かる。
「やっぱり隣に男の人いたりすると気になるわよね?」
 失礼だと思いながらもくすくすと笑うのが止められない。誰に対してもスマートに対応していると聞く彼も、彼女の事になると形無し。そんな事ないですよ、と言いつつ気まずそうにしてる。
「しょうがないしょうがない。青子ちゃんもそうだから大丈夫大丈夫」
 不思議そうにこちらを見るけどそれには答えず大丈夫よ、ともう一度繰り返した。