青子はとなりに

 快斗は青子が好きで、青子と気持ちがお揃いだと言った。嬉しかった。
 でも。
 
「青子は失恋したからね~……」
 少し前に。学校からの帰り道呟いた言葉。快斗に聞かれて、なんだそれって言われた。
 快斗がキッドだって知った時。キッドは蘭ちゃん助けるために必死で。狙ってた宝石とかどうでもいいって言ってて。だから、蘭ちゃんの事がすごく好きなんだなって思った。その時に、この好きは言っちゃいけない好きなんだって気付いた。
 黙っておくのは簡単。言わなければいいだけ。
 なのに快斗は聞き出そうとするから
 近づいてくるから
「近づかないで。青子は、青子だから。青子を蘭ちゃんの代わりにしないで。好きな人にだけ、そうして。誰にでもそんな事しちゃ駄目でしょ?」
 あの時、快斗が辛そうな顔したのは何でだろう。 
 帰る時、気持ちがお揃いだって言ってくれたのは何故だろう。
 蘭ちゃんには工藤くんがいるから、同じ気持ちだから、お揃いだって言ってくれたのかな。きっとそう。
 だったら、やっぱり。
 ちゃんと幼馴染に戻らなくちゃいけない。
 
 + + +
 
 
 今日は駅で待ち合わせ。映画を観に行こうって快斗が誘ってくれた。気になるって言ってただろって。こういう事はよく覚えてるんだよね。
 でも、何かの下見かな。一人だと疑われちゃったりしたとき困るもんね。
 お付き合いして初めてのお出かけ。そして、最後のお出かけ。そう決めた。いつまでも青子に付き合わせちゃいけない。
 
 鏡でもう一度確認。いつもの癖っ毛の跳ね方は少しまとめてふわっとさせた。爪は磨いて、肌馴染みの良い色を塗った。新しいリップもつけてみた。おかしくないといいな。おこちゃまが大人のふりしてとか言われちゃいそうな気もする。何も知らなかったんだもの、おこちゃまって言われてもしょうがない。
 快斗は知らない間に大人になってた。青子の知らないうちに人を好きになって、知らないうちに知らない事をするようになってた。
 いつ変わったんだろう。
 少しずつ、いつのまにか……好きな人が出来たからかな。
 こつん、と普段履かない少しヒールのある靴が音を立てた。
 気付けば快斗が隣にいて、ボーっとしてんなよとか言う。いつもの、声で。だからそんなことありませんよーっていつものように返した。
 
 快斗は車道側を歩いて、すれ違う人の邪魔にならないよう青子をリードしてくれる。
 館内に入っても、ドリンクのお金払うよって言ってもいいって言うし……かっこよく見せたいって言うのはいつもだけど、好きな人にはもっと良く見せたいもんね。大丈夫、かっこよくなってるよ。自然と顔が緩んでしまう。嬉しいもん。
 おじさまの血をひいてて、努力もしてるんだからかっこいいに決まってる。
 青子が言ってもしょうがないだろうから言わないけど。そう思ってもらえてるといいね。映画が終わって、陽が少しずつ地面に近くなって沈んでいく。終わりの時間。
 
 青子の家の扉。その前で快斗と向き合う。
 送ってくれてありがとうって。おう、っていつものようにぶっきらぼうに答えてくれて。
 いつもが嬉しかったから、だから、
「快斗。別れよう?」
 そう言った。
 
 
 快斗からは返事がない。門扉に手をかけて、青子をじっと見てる。
「失恋したとか言ったから気を使ってくれたんだよね? あの、青子大丈夫だから。好きって言ったの、幼馴染だからだよね? お揃いって言ってくれたの、蘭ちゃんの事思い出したんでしょう? ね、青子は大丈夫だから」
「何言ってんだよ。全然大丈夫じゃねーよ」
 何が大丈夫じゃないんだろう。青子は大丈夫。ちゃんと知ってるから、だいじょうぶ。
「ごめんね、つき合わせちゃって」
 そう、快斗は青子に付き合ってくれてるだけ。
 好きな人に好きな人がいるっていう、それがお揃いだから付き合ってくれてる。
 ね? と問いかけてみるけど、うんとは言ってくれない。身動きもしない。どんどん陽は沈んで闇が深くなる。どうして? 青子に気を使わなくてもいいじゃない。
「きけよ、青子。オレは、青子は、青子で……だから。なあ、青子。傍に、いろよ」
 青子がなんだろう。どうして傍にいた方がいいの?
「快斗は、青子嫌いじゃない?」
「嫌いじゃねーよ」
「じゃあ。快斗の好きな人の代わり位になれる?」
 蘭ちゃんの代わりならそばにいてもいいのかな。ううん、快斗に好きな人が出来るまでの、かわり。
「なれるわけねーだろ!」
 いきなりの大声にびくっとなってしまった。こんな声の荒げ方は珍しい。怒った? 何に?
「違う、そうじゃなくて……」
 快斗が言葉を選んでる。いつだって迷ったりなんかしないのに、考えてる。気にしなくていいよ、快斗。幼馴染でしょ。
「あのね、青子大丈夫だから。ちゃんと別れよう。別れても幼馴染でいていい? また一緒にご飯食べて、学校行こう?」
「だから、違うんだよ」
「快斗?」
「オレは青子が好きなんだよ……知ってくれ。それだけでいいから」
 何を言ってるんだろう。幼馴染だよね、しってる。
 どうしてそんなにつらそうな顔してるの。今の空の色と同じ顔してる。
「かいと? あの、やっぱりまだ好きなんだよね。無理しなくていいと思うよ。そう言うのだったら、青子付き合うよ」
 怪盗のお仕事放り出してもいいくらい好きな人の事、そんな簡単に忘れられないよね。一人じゃ辛い? 誰にも言えない、本人にも言えなかった。青子なら聞ける。
「そうだよ、好きだよ」
「うん、だったら」
「青子じゃないと駄目なんだ」
「青子なの?」
「そうだよ、青子がいいんだ」
 幼馴染。ずっと一緒だった。青子でいいのかな。
「大丈夫だよ、青子ちゃんといるよ」
「いなくなるなよ、いろよ」
「うん、いるよ」
 門の上の快斗の手に青子は手を重ねる。
 そうだよね、やっぱり好きだよね。そんな簡単に諦められるわけないもん。
 青子だって、快斗の事好きだし。傍にいていい人に青子を選んでくれただけで満足。
 大丈夫。傍にいるからね。