この嘘は叶わない - Prologue -

「ごめんな、青子。オレ、怪盗キッドで」
 
 桜の花が空を染める季節。月明かりを背に青子の一番大切な、幼馴染はそう言った。
 そしてそのまま消えそうになるから。
 消えて欲しくなくて。
 手を伸ばしたけど届かなくて、掴めなかった。
 
 + + +
 
 
「なあに~? 中森さん、何か言った?」
「ううん、なんでも~」

 高校を卒業して、大学に通い始めて。一人でいるのにも慣れた頃には季節が一巡りしてしまっていた。

「だからさ、すっごく気合い入れてくるわけよ。エイプリルフールに。日付変わってからずっと嘘ついてくるわけ」 

 講義を受ける時に隣り合って席を取る彼女。付き合って数年経つ彼のお話をころころと楽しそうにしてくれる。聞くたびに思い出してしまって。何一つ近い所も似ている所もないのに。寂しい色が心の片隅にじわじわと広がってしまう。 

「ずっと?」
「そうずうーっと! 一日中! すぐばれちゃうやつばかり!」 

 ふうわりと桜の花びらが講義室に舞い込む。軽やかなその動きに思い出してしまう。
 何を見ても思い出す。
 こんな時は、あんな時は……いつだって。 

「エイプリルフールの嘘って午前中について、午後は種明かしなんじゃなかった?」
「そう! そう言ったんだけどずっとつくわけ。種明かしはいつよ、って聞けば種明かしはしないとか言ってさー……」 

 ぶつくさ言いつつも彼の事が大好きって分かる声が微笑ましい。微笑ましいけど、少し苦しい。 

「エイプリルフールについた嘘は一生叶わないとかもいうよね」
「そう、それ! そう言ったらちょっと焦ったけど。嘘なんだから叶ったら困るだろって。もうね、だめよね。大体めんどくさいのよ、エイプリルフールって!」 

 そう、エイプリルフールについた嘘は叶わない。ただのおまじない。おまじないだと分かってる。だけど、願ってしまう。
 だからこっそり呟いてた。
 いなくなったその日に。そしてその丁度一年目の四月朔日の日に。 

「快斗はこの世にもういないんだって」 

 これは嘘だから。
 だから、きっと叶わない。叶わないで。叶わないで欲しい。重ねた両手に力がこもる。

「そういえばさ、バイトまた増やしたんだって? 働き過ぎじゃない?」

 少し強い風にあおられて。はらりと机の上に桜の花びらが舞う。

「うん、ちょっと割のいいバイトだったから。短期間だし」
「そんなにバイトバイトって……留学でもするの?」
「似たようなものかな。ちょっと世界一周みたいな事したくて」
「ほほーん。そりゃバイトの虫になる訳だ。働き始めたらそんなことできないだろうし。いまだけよね」
 そうなんだよ、と口元を笑顔の形にする。

 幼馴染は……快斗はいま何処にいるんだろう。いなくなってから、寂しくなった、空っぽになった隣。
 快斗が隣にいないのは嫌だ。
 だから決めた。探しに行くと。時々流れてくるキッドの仕事の話。殆どが海外。場所はバラバラ。昔みたいに日本の一部だけにいたりはしない。
 
 だけど、絶対に捕まえる。