「そんなわけで、青子ちゃん宜しく」
「うん、分かった。工藤くん頑張ってね」
ぐいぐいと蘭ちゃんに引き摺られながらも嬉しそうな工藤くんを送り出すと、青子は快斗と一緒に講義室に入った。
「おはよー黒羽~……って、あれ。彼女?」
話しかけてきた男の人……快斗と蘭ちゃんと同じクラスの人だよね。快斗の隣の席……青子の反対側に腰を落とした。
「おはようございます。今日の講義だけ私がこっちに来ることになったの」
「工藤が講義ほっぽって逃げ出さないよう蘭ちゃんが見張りに行って。代わりにこいつがこっちに来て。今日の講義、午前だけで出欠は〇付けるだけだし。内容も向こうのクラスと同じだろ」
そう、何度も何度も講義ほっぽって捜査に加わっちゃって。出欠チェックは色々なパターンがあるけど。今日みたいに出欠用紙が回ってきた時に〇付けるだけだったりすると、〇だけ付けてささっと出ていったりとかするから。八割方そうしてると知った蘭ちゃんが「そう言うのは駄目! ちゃんと受けて!」ってぷんぷんと怒って。「私が見張りに行くからね、青子ちゃん私のかわりにうちのクラスで講義受けて!」とお願いされたから青子は快斗のクラスに来ちゃった。
工藤くんが飛び出すときに青子ももっと言えばいいのかなって思ったけど「こういう時の新一は回り見てないから……」と呆れたように、でも嬉しそうに言うから。蘭ちゃんは工藤くんが大好きなんだなって、とてもよく判る顔してたから、青子はそうなんだね~と相槌だけ返した。
「あーあーはいはい。愛されてんね~工藤。この間の懇親会、工藤が見せびらかそうとしたら怒られてたけど」
「見せびらかすって」
「オレの彼女! ってやってた」
会うやつ会うやつに自己紹介みたいに見せるからさ、彼女が呆れちゃってて~……と続いて何となく納得する。工藤くん、蘭ちゃん大好きだもんね。
「黒羽、お前もだよ」
「オレも?」
「べた甘だったじゃん。あからさますぎ」
えっ、て顔してる快斗。快斗は工藤くんが蘭ちゃん好きなほど、青子の事好きじゃないと思うけど。あまかった? あからさま? ん~~……家に連れて帰ってくれたけど、いつも一緒に帰るし。うーん? と考えて「いつもの快斗だったよ?」と、答えた。
懇親会の事は正直あまり覚えてないんだけど。快斗と一緒に帰って、青子の部屋でお話して、朝起きたらご飯できてて一緒に食べて……割りといつも通り、だったと思う。
「えーと、中森さんだっけ? こいついつもあんな感じ?」
「いつも通り……だったけど、違った?」
いつも……いつも通りだったよ、ね? この人の言ういつも通りがちょっとよく判んないけど、青子にはいつも通りだった。
「よしよしってしてくれる?」
「よしよしってしてくれる」
うん、してくれる。大体はめんどくさそうにはいはいって返事するけど。時々は分かりましたと甘やかしてくれる。諦めちゃってるのかな。
「そうかそうか、ありがとう」
「どういたしまして?」
とても満足そうに頷いてる。快斗は名前も知らない彼と青子の間で頭抱えてて。何か変な事言ったかなと反芻してみる。ん~~……嘘はついてないよ。
「おはよう、黒羽くん」
「おう、おはよ」
快斗に朝のあいさつした女の子たちがちらりとこっちを見てくる。クラスに見知らぬ子がいたら吃驚するよね、普通。
「黒羽の彼女。毛利さんと今日だけクラス入れ替えっこだって」
快斗の隣にいる彼がさらりと説明したら、クラスの他の子もわらわらとやってきた。
「時々隣のクラスのやつ来てるよな」
「向こうで出そくった講義とかこっちで受けてたりするじゃん」
「俺、昨日は隣のクラスに行って聞いたわ」
「そういや教授の奥さんがこの間受けに来てたよな。主人の講義つまらないわ~とか言ってた」
「授業参観かよ」
わいわいがやがやとざわめく音が楽しい。高校の時みたい。頬杖ついてにまにましてたら快斗にほっぺつつかれた。
「楽しそうだな、オメー」
「うん、だってすごく久しぶりじゃない。隣で授業受けるの。高校ぶり。あの時は快斗いっつも寝てたけど」
理由は分かってるけど、いっつも寝てて。先生にあてられるけど何とかやり過ごして。大変な時期だったんだろうけど楽しかった。
「眠かったんだよ」
「も~! 夜更かしするからでしょ」
今はもう夜更かししなくていいもんね。よかった。自然と頬が緩んだ。
+++++
「新一。いつもこの辺りなの? 座る場所」
「ああ、すぐ出ていけるだろ」
「出ていくの前提なの……」
青子ちゃんに今日だけクラス交換してもらって、新一の見張り。新一が行って事件解決はいいんだけど、講義の途中に抜けてっていうのはいただけない。せめてその講義終わってからとかにして欲しい。
「あ、俺も終わったらすぐ出て行きたいからここだよ。この辺り座ってるやつ大概そう」
「私この講義の後バイト入ってるから」
「食堂の席取りもあるし」
「でも板書も見やすいし丁度いいんだよね~」
前後左右の席から矢継ぎ早に飛んでくる理由。誰も途中で出ていくからとは言ってない。うん、途中退室だけは少なくしていこうよ、新一。
+++++
「やっぱり快斗の隣で授業受けるの楽しいね」
「へ」
次の講義の教科書を鞄から出して、いま受けて多分のをしまう。快斗は二講義分の教科書をまとめて机の上に置いただけ、開けてもいない。まあ、見なくても内容くらい覚えてるんだろうけど。記憶力いい。
「高校ぶりでしょ。あの時も席、隣だったじゃない?」
「ああ、そうだな」
「今は居眠りとかしないんだ。真面目になったね」
「あの時は別のがあったから」
あの頃ほどじゃないけどちょっと眠そう。昨日工藤くんとこ行ってたから何か頼まれたんだろうな。ややこしい事かな。危なくないといいんだけど。
「うんうん。ね、いつも座るのこの辺り?」
「そうだよ」
この辺りね、覚えた。青子も元々この辺り良く座るけど、今度からいつも絶対この辺にしよう。上と下、教室内の配置ほとんど同じだし。ちょっと嬉しい。
「工藤くんね、『蘭と一緒に講義受けたかった~~』ってよく言ってるの」
「オメーもしかして、講義受ける時工藤の隣?」
すっごくむすりとした顔で快斗は聞いてくる。青子が工藤くんの話する時はいつもこんな感じ。ただ話してるだけなのになんでだろ。蘭ちゃんの話してる時はそんなでもないのに。
「時々。講義受けるとき一人だったりすると工藤くんが隣にきたりする。工藤くんも一人だと寂しいのかな」
女の子の友達と受けることが多いけど、受ける講義によっては一人になるから。お勉強だし一人でも問題はないんだけど、隣に誰かいるのは違うもんね。
「工藤くん、電話で呼ばれて出ていく時あまりにも堂々と出ていくから。あれ、講義もう終わっちゃったかな? って思っちゃうんだよね。先生も何も言わないし」
「それ諦められてるんじゃね?」
そうかもしれない。『日本警察の救世主』とか言われちゃってるし、捜査にいてくれたら助かるもんね。でも授業料勿体ないからもうちょっと上手にしたらいいのに。
「ちょっと待ちなさいよ、新一!」
「わりい! 呼ばれたからちょっと行ってくる」
「ちょっとじゃないわよ!」
階段の方が騒がしい。蘭ちゃんと工藤くんの声。
「蘭ちゃんでもダメだったんだね」
「そうだな」
一講義分はちゃんと受けたんだ、工藤くん。青子だと一講義分も無理だから蘭ちゃん流石だな。
折角蘭ちゃんと講義受けれる機会。自分から潰しちゃってあとで後悔しないのかな。今度聞いてみよう。