青子は知っている

 

 今日の出来事。

 ゴールデンウィーク最終日。

 スマホのニュースで昨日みつけた流星群。

 そして、快斗のデート。

 

 

 子供の頃はこいのぼりを庭に飾ってあるお家も多かったけど、今は殆ど見ない。でも、子供の日の催し物とかで手持ちサイズのこいのぼりはそこここに溢れてる。いつも買い物に行くスーパーにだって。買い物に付き合ってもらってる時も、快斗は視界に入れないよう遠くに離れてそちらを見ない。

 子供の日は終わった。苦手なおさかなの形のものは消えた。大手を振って外に出れる。

 

 朝ごはんはほうれんそうのお味噌汁、昨日の残りのたけのこの炊き込みご飯。あとお漬物。全部きれいに食べ終わって、食器を流しに持っていきながら一つ深呼吸。

「ね、今日はデートなんでしょ? 子供の日終わったもんね」

 思いきって声をかける。お休み始まって初めての日曜日にちらりと目に入ってしまったその情報。リビングで映画見ながら寝てしまった時に、意識の遠くで何度か聞こえたメッセージの通知音。目が覚めて、ソファにほおって置かれたスマホの画面がちょっと目に入ってしまって。女の子から。だから多分、今日は。

「誰の話だよ」

「誰って……快斗」

「誰が誰とデートするって?」

 不機嫌を隠さず青子を見てくる。青子が知ってるの嫌だったかな。そうよね、『彼女出来た』も言ってくれてないんだから、知られたくなかった筈。失敗しちゃった。

 落ち込みそうになるけど、わざと明るい声を出して答える。

「快斗が彼女と……相手は知らないけど、デートするんでしょ?」

 するとすっごく大きなため息を快斗はついた。え、なに? デートの約束なくなったとか? 昨日までは快斗の苦手なものが町中に溢れているから。そんな中にでかけて、彼女にかっこ悪いとこ見せたくないから、だから……。

「そんな予定ないけど? 大体彼女はいないけど?」

「えっ、なんで。メッセージ貰ってたでしょ? だから、青子……」

 青子がそう思った理由に思い至ったらしい。快斗は青子の目の前でわざとらしく自分のスマホを楽しそうにくるくる回し

「青子サン? 人のもの勝手に見ちゃって、いけない子ですね~~?」

 そう言った。

 人のスマホ画面なんて個人情報の塊で見てはいけないもの。ちらっと見えたからって、その内容を話したりしちゃいけなかった。思いっきり頭を下げる。

「わざと見ようと思ったんじゃないの! ちょっと目にはいちゃったの! そしたらなんかカラオケとか約束してたから、だから行くのかなって。いつ行くのかなって……その……ごめん!」

 頭下げたまま。でも快斗の返事はなくて。うう、怒っちゃうよねやっぱり。軽くため息つかれたと思ったらつまらなそうな声。

「いかねーよ。あいつらだけで勝手にいくだろ」

「あいつら?」

 ほれ、頭上げろよとぴんと指で弾かれた。ちょっと痛い。

 見上げると呆れたような顔をしていて。彼女はいない? デートじゃない? 委員会? 何が何やらよく判らない。はてなマークの舞う青子を前に快斗は言う。

「委員会のグループ。オレ関係ねーし」

「委員会のお話するんじゃないの?」

「しねーよ。そんなの学校で話せばいいじゃん。休みの日にわざわざ出かけたくねー……」

 よくよく聞けばメッセージアプリの委員会のグループで遊びに行く話が持ち上がり、誘われた。でも快斗は断った。そう言う事らしく少しホッとする……あれ、なんで?

「なぁに~? オレのことそんなに気になってた?」

「ちがう! その、お出かけするなら邪魔しちゃいけないかなって、思って。一人だと……快斗いないとつまんないけど、しょうがないかなって」

「そっかーつまんないか~そっかー青子チャンはお出かけするような彼氏もいないんだもんな?」

 すごく満足そうな顔してスマホを回す。なによ、青子に彼氏がいないのそんなに楽しいの!? ちょっと気を使ってあげたらこれなんだから。

「なによもう! いいもん、快斗なんて誘わないもん!」

 もう、揶揄ってばかり。止まってた後片付けさっさと終わらせちゃう! 流しに向き直ると快斗が青子の肩に顎のせてきた。

「何が」

「だからいいって」

「言ってみろ」

 どんな顔してるのかは分からないけど、声はすごく静か。体は動かさず答える。

「流星群が見えるんだって。みずがめ座流星群。今日の夜の六時が極大」

 デニムパンツのポケットからスマホを出して、画面をみせる。みずがめ座流星群の記事。見つけた時からずっとその画面は開きっぱなし。

「流星が流れ始めるのは夜中から明け方、ね」

「そう、ベランダからなら少しは見えるかなって……だから」

 夜遅くて電車はなくなる時間。翌日は学校だし、見やすい所に行ったりなんてできない。でもベランダからなら少しは見えるんじゃないかと思って。

「早く言えよ。バイクだったらちょっと離れても何とかなるだろ」

 そんなに遠い所はいけないけどな、と穏やかな音。

「連れてってくれるの?」

 振り向いて、快斗と視線を合わせるといつもの笑い顔。

「連れてってやるよ。遅くなるからちゃんと警部と碧子さんに言っとけ」

 一番見れる時間はベランダになるけど、そのギリ手前までどこだかの公園でみてから帰ってきて~……と快斗はスマホを弄りだす。一緒に、見れる。

「うん、ありがとう! 寒いかな、夜だもんね。ちゃんとあったかい恰好しなくちゃ。遅くなるよね。快斗、明日寝坊しないでよ。学校なんだから」

「わーってるよ」

 いつもの返事にこころがふわふわする。

 どうしよう、バイクのメット綺麗にしてこなくちゃ!